突然の夕食のお誘い
女性職員さんが話を付けてくれて泊まることになった豪華ホテルの部屋のソファーに座りながら、自分に一体何が起きたのかを振り返っていた。
ライブ会場に突撃して女性職員さんに話しかけたあたりからの出来事が、あまりにも急展開すぎて頭の整理が追い付かなかったのだ。(詳しくは前回記事をご覧ください)
登場人物が全員聖人なのだけは分かるのだが…。
といった考え事をしていると、部屋の電話が鳴った。
「フロントに来てください」
やばい、、、自分ここにいちゃダメだった??もしかして??
と心配しながらフロントに向かうと、女性職員さんが手を振っていた。
「ライブまで時間あるし夕食行こうよ!ご馳走するよ!」
(え!いいんですか…?)
最初は畏れ多すぎて「お腹あまり空いてないんで…」と遠慮したが、女性職員さんのゴリ押しに負けてお言葉に甘えることにした。
メキシコ料理かハンバーガーか好きな方選んで!とのことだったので、メキシコ料理がいいですと答えた。
アメリカに到着してから、物価の高さにビビってほぼハンバーガーかスナックしか食べてこなかったためである。(day1-2、day2-1参照)
店に入ると、お通しのタコスチップスが出された。
食べたいものを聞かれたが、メニューを見てもよく分からなかったので、女性職員さんのオススメに任せることにした。
女性職員さんオススメの料理は、鶏肉や玉ねぎやピーマンが入った炒め物を、煮豆や米などと一緒にトルティーヤで包んで食べるものだった。
ハンバーガーとスナック漬けのジャンキーな食生活が続いたこともあり、涙が出るほど美味しかった。
普段は野菜をあまり食べない自分も、珍しく野菜が美味しいと心底感じた。
女性職員さんは目の前の見慣れないアジアの異邦人に興味津々な様子で、食事中はずっと質問攻めに遭っていた。
内容は、
- どういう経緯でフローレンスに来たのか
- 自分(富川)がどういう人なのか
- どうやってAndy Timmonsを知ったのか…etc
その様子は(ややフランクな)就活の面接さながらである。
そして、30秒に1回は女性職員さんから”crazy”と言われつつも、よくここまで来たねと褒めてくれた。
やはり自分の行動のクレイジーさは、国境や言語や人種を越えて認められるものらしい。
かなりの量が出されたため食べ残しが出たが、店員さんに言えば紙パックに入れてテイクアウトできるとのこと。
そして、女性職員さんから「明日の昼ごはんにでも食べてね」と渡してくれたのだった。
ホテルの部屋に置きに行った後、ライブ会場に向かった。
本命のライブ
実はライブの前(masterclassの直後)に、Andyが「何かライブで聴きたい曲あるあればリクエスト応えるよ!」という神ファンサービスをしてくれていた。
そこで、(本当は全曲聴きたかったのだが)Cry for YouとElectric Gypsyをチョイスした。
この2曲は、Andy Timmonsを象徴する曲、Andy Timmonsを知らない人に勧めるとしたら絶対に外せない曲である。
ベタなチョイスともいえるが、飽きることなくずっと大好きで何度も何度もギターでなぞってきた曲でもあるのだ。
ライブはmasterclassと同じ会場で、Andyオリジナルのカラオケ音源に合わせてギターを演奏するというスタイルだった。
会場に到着すると、アンディーズのJulieとJohn(前回記事参照)が「こっち!こっち!」と手を振って最前列に案内してくれた。
ライブの開始を待つAndyも”Hey, Tommy!” と笑顔で迎えてくれた。
そして、ライブ後に販売する物販のCDをお土産としてプレゼントしてくれたのだ(!)
本当にAndyからは至れり尽くせりの限りで受け止めきれないほどのファンサービスを受けており、申し訳ないすらも感激すらも通り超えたかつて感じたことのない複雑な幸福感で一杯になった。
この複雑な幸福感に浸りつつ興奮しながら待っていると、Andyがトークを始めた。
いよいよライブ開始だ。
AndyはMCトークも上手いようで、おしゃべりするたびに観客の笑いを誘っていた。
そして、”Do you like Rock’n’roll ????”というAndyの煽りから、一曲目の”Deliver Us”が始まった。
圧縮も脚色もされていない、解像度100%のAndyの音が身体を突き刺す。
その瞬間から、言葉にならないほど衝撃を受けた。
それまで何千回と再生して聴いてきたはずの音なのに、新鮮に感じる。
そして、彼が間違いなく”ギターヒーロー”であることを確信した。
おそらくこのときの自分の目は、漫画「僕のヒーローアカデミア」で例えると、幼少期の緑谷出久がオールマイトを見ているときの目をしていたと思う。
この旅で求めていた音楽の「憧れ」に出会えた―そう強く感じた。
その後、“On Your Way Sweet Soul”のようなエモーショナルなバラードから、”Super ’70S”のようなド直球のロックや、”Groove or Die”のような難関曲まで、実に多彩な曲が続いた。
それら全てに、Andy Timmonsというヒーロー像が鮮明に映し出されていた。
一通り弾き通したところで、AndyがMCで「なんと今日は日本からはるばる来てくれた人がいます!!!」と言い、自分の方に手を向けて紹介してくれた。
すると、他の観客の皆さんから温かい拍手を浴びたのだった。
少々恥ずかしい気持ちになりながらも、感謝の気持ちとともに拍手にお辞儀で応えた。
そして、Andyは「そんな彼がリクエストした曲です!”Cry for You”」と続け、Cry for Youの演奏が始まった。
数時間前に自分の演奏を見てもらった曲を、答え合わせのように本人が演奏する。
もうこれ以上ない感無量である。
数曲続けた後、もう一つのリクエスト曲Electric Gypsyも演奏してくれたのだった。
さらに、出発前にこのブログで書いた伏線を回収するかのような演奏もあった。
なんとAndyがJeff Beckを追悼して、彼の代表曲’Cause We’ve Ended as Lovers(哀しみの恋人たち)を演奏したのだ!
演奏自体は当然のことながら素晴らしいものだったのだが、自分はそれ以上にこみあげてくるものがあった。
Jeffの死が本当にAndyと自分を繋いでくれた―
このことを強く実感したのだった。
注)この旅を実行に移した一番の動機がJeff Beckの死だと綴ったのが、このブログの初投稿である↓↓
tommykawa-guitar-experience.hatenablog.com
この夢のような時間は一瞬で過ぎ去ってしまい、ライブは終演となった。
(自分のTwitterにライブの様子をアップしているので、是非見てみてください!)
なんとAndyが「何かリクエストない?」って言ってくれて、自分が答えたこの2曲をライブで弾いてくれました!!感激すぎる😭😭
— 富川啓文 (Hirofumi TOMMY-kawa) (@tommy_kawa1623) 2023年2月21日
あと、Jeff BeckをAndyが弾くっていう激アツすぎる展開もあって最高だった……
(※掲載許可アリ) pic.twitter.com/gidObo3DwH
ライブ後は、余韻に浸るようにAndyと観客の交流の時間となった。
観客たちが、Andyと話したりサインを貰ったりしていた。
また、この時間ではライブの機材(エフェクターボード、アンプ)も自由に見てよく、Andyが如何に分け隔てなくオープンな人なのかが伺えた。
(そして今となって機材の写真をあまり撮らなかったのを後悔している)
このタイミングでは、他の観客の方々から声を掛けられた。
「本当に日本から来たの?!」
「Andyの大ファンなんだね!!」
「君もギターを弾くの??」
みたいなことを聞かれたのだった。
話を交わした一人は、バークリー音大出身のギタリストで、お互いのYouTubeをチャンネル登録し合うこともした。
Andyの元に集う人が減り始めた頃合いを見て、自分もAndyのもとに駆けつけた。
プレゼントしてくれたCDにサインしてもらい、アンディーズの方々に感謝を伝え、固い握手を交わして会場を後にしたのだった。
ホテルに戻ってからも、ライブの余韻は全く抜けなかった。
シャワーを浴びた後、ベッドに横たわりながらAndyと撮った写真を眺めたり、Andyのサインを眺めたり、演奏を思い出したり……
余韻に浸りながらTwitterにAndyと会ったことをツイートしたところ、たちまち日本のAndyファンや友人たちに広まり、沢山の反響をいただいた。
いわゆるプチバズの状態になったのだが、現代人がSNSで満たす承認欲求以上に、ライブの余韻が強く残っていた。
ただ、見ず知らずの場所で人が歩かないような道を6 kmも歩いたり、聖人たちから頭の整理が追い付かないほど至れり尽くせりのおもてなしを受けたりしたことで、心身ともに疲労が蓄積していた。
そして、スマホの電池が切れるように眠りについたのだった。
しかし、いつ思い返しても夢のような時間だったなぁ。
(つづく)