フローレンス到着
座席の予約時点で既に察しは付いていたものの、実際に目の当たりにするとその小ささに驚く。
フライト時間は1時間弱だったため、飛行機が動き出した瞬間にはもうフローレンスに到着したのも同然だと思い、内心ホッとしていた。
「SGさん(前日譚その2参照)が言った通りにUberを呼んで早くホテルに向かおう、そしてベッドにダイブして疲れを癒そう!」
と、思っていた矢先に飛行機は下降を開始した。
外を見る。
…あれ、こんな所に空港なんてあるの??
見渡す限り森である。
みるみる高度が下がる。
飛行機が森の中に突っ込んでいく。
ドンッという鈍い音がする。
滑走路に着陸したみたいだが、周囲は変わらず森である。
飛行機を降りた。
フローレンスが如何に辺鄙な場所なのかを肌で実感した。
満身創痍でスペックの落ちた頭が、危機感のようなものでフル回転し始める。
(30分経過)
何度試してもスマホの画面は「ドライバーが見つかりません」と表示される。
日が暮れていく。
空港からホテルまでは約8 km。
ホテルまで歩ききれる体力が残っているかも怪しい。
第一、見ず知らずのアメリカの田舎で夜道を歩くわけにもいかない。
身ぐるみをはがされようが何されようが、助けを呼んでも来るわけがないと悟った。
―終わった。
絶望の淵に立つとは、まさにこのことである。
カウンターのオジサンに助けてもらう
とりあえず、このままではどうしようもないと思い、人に頼ることにした。
レンタカーの受付カウンター(?)にいた白人のオジサンに声を掛けた。
英語力とかはもはや関係ない、とにかく気合で特攻した。
「すみません今困ってて、、、Uberでホテル行こうとしてたんですけど、ドライバーがいなくて…」
オジサン「こんな小せぇ街じゃ誰もUberなんてやってないよ(笑)」
「え!どうしたらいい?どうしてもホテルに行かないと…!」と、気合のコミュニケーションで伝えた。
日本語が通じない相手にここまで強気に出れたのも、状況が背水の陣だからだろう。
オジサンが、地元のタクシー会社の電話番号を教えてくれた。
しかし、何故か自分の携帯から電話が繋がらない。
結局、そのオジサンが地元のタクシーを呼んでくれた。
心の底から“Thank you so much”と伝えた。
本当にオジサンには感謝しかない。
が、自分も満身創痍の状態でよく頑張ったと思う。
タクシーの運ちゃんエピソード
オジサンが呼んでくれたタクシーが到着した。
乗り込み、運ちゃん(イカツめな黒人)に宿泊先のホテルを伝える。
Google mapを開いて変な場所に連れて行かれていないか警戒しつつも、やっとホテルにたどり着けると安心もしていた。
オジサンと気合コミュニケーションを交わした直後かつ安心した状態だったため、その勢いでタクシーの運ちゃんに話しかけてみた。
運ちゃんに「好きなギタリストのライブを見るために日本から来た」と言ったら、「日本人なんてこの街で初めて見たよ!」と言われた。
絶望の後だったのも相まって、自分が相当なことをやっていることを改めて自覚した。
だいぶ打ち解けてきたタイミングで、運ちゃんが「そっかアンタ日本人だったらこれ知ってる??ええと、何だっけ…?」と続きが気になる発言をし始めた。
どうやら翻訳アプリを使って続きを説明したいようで、赤信号の間に手元のiPadでアプリを立ち上げようとしていた。
しかし、アプリがインストールされておらず、手間取っている間に青信号になってしまった。
そして、運ちゃんは話を続けるのを諦めてしまった。
こちらから別の話を切り出せるような雰囲気でもなかったため、そのまま両者ともに黙りこくってしまった。
運ちゃんは、それまでの話を無かったことにするかのごとく、EDMを爆音で流し始めた。
車内に気まずい雰囲気が充満したまま、タクシーはホテルに着いた。
満身創痍でもなかなか眠れない
ホテルのチェックインを済ませ、部屋に入る。
ホテル自体は、高速道路(ハイウェイ)のジャンクション近くのモーテル的な所である。
1泊1万円以下の比較的安い宿(フローレンスでは最安値クラス)だが、ベッドが大きく思ったよりも快適そうな印象だ。
さっそくシャワーを浴びた。
シャワーを浴びながら、ホテルの石鹸で足踏みの洗濯もした。
洗濯機のない状況での洗濯は十分な脱水が難しいため、いかに早く洗濯物を干し始めるかが重要である。
そのため、何が何でも着いた直後にやるぞと決めていた。
乾きやすさで服を選んだのは本当に正解だったが、それでも満身創痍の身体にとっては苦行だった。
何とか洗濯物を干し、ベッドに横になろうとした瞬間に第二の絶望が訪れた。
完璧な状態で出したつもりでいた修論に不備があり、修正と再提出が必要との連絡が来たのだ。
ノートPCも無い、、、どうしよう、、、、、、、、
ああああああああああああああああ(精神崩壊)
この瞬間が、この旅で一番の絶望のピークだったと思う。
ただでさえ疲労困憊で満身創痍の状態だったところに、まさかのトラブルが襲い掛かってきたのだ。
熟考・相談の末、他の人に急遽修正作業をお願いする方法を取ることにした。
修正を代わりにやっていただける請負人が見つかり、やっとのことで眠りについた。
こういうトラブルは予期せぬ所から雪崩的に発生しがちである。
このことを強く再認識した2日目であった。
そして、3日目はついにAndy Timmonsのライブである―
(続く)