前日の雪崩的トラブルたちを何とか乗り越え、いよいよライブ当日となった。
疲労の蓄積が半端なく、おそらく人生でトップ3に入るぐらいの熟睡だったと思う。
起きた時間は大体10:00 amだった。
いよいよ今日Andy Timmonsと会えると思うと、期待と緊張が高まる―
…わけではなかった。
正直のところ、不安の方が遥かに上回っていたのだ。
期待を遥かに上回る不安
郊外のホテルに宿泊しており、当初はUber(Uber EATsの人間を運ぶVer.)で会場のある市街地(約6 km先)へ向かおうと考えていた。
しかし、前回説明したように、フローレンスはUberユーザー不在の田舎街である。
しかも、自分の携帯電話は何故かタクシー会社に繋がらないのだ。(前回記事を参照)
ただ、フローレンスは観光地が特別にあるわけでもなく、19:00 pm開始のライブまで何もすることが無い。
…会場まで歩くか。
そして、準備を整えて外に出た。
外に出た瞬間に絶句した。
人が歩くことが想定されていない道だったのだ。
大型商業施設は乱立しているのだが、そのどれもが車で来ることを想定されたものだった。
道路脇の草むらは歩けなくもなかったが、横断歩道が無い。
もちろん周囲には、自分以外の歩行者など一人もいない。
場所によっては、草むらに腐って骨が露出したシカの死体(?)も転がっていた。
いつ事故に遭っても、いつ拉致されてもおかしくないのではないか…
仮に会場に行けたとしても、体調不良などの理由でライブがキャンセルになってしまうのではないか…
というネガティブな考えが次々と頭に浮かび上がり、足がすくんだ。
でも、ここまで来てしまった以上、ライブに行くという目的を果たすしかない。
Andy Timmonsに会える可能性だけが、この不安を紛らわしてくれた。
もはや”期待”ではなく、不安を乗り越えるための”希望”となっていたのだ。
マクドナルドで昼食
サウスカロライナはとても温暖な気候だったのに加えて、車が途切れるタイミングに走って道を横断していたため、想像以上に水分と体力の消耗が激しかった。
ちょうど3 kmほど歩いたところにマクドナルドがあったため、そこで昼食をとることにした。
絶対このマックに日本人来たことないよな…なんて考えながら、タッチパネル式のオーダー機でビッグマックセットを注文した。
「タグ(番号札)を持って席で待っててね」と表示されたため、番号札をテーブルに置いて待っていた。
しかし、何十分待っても運ばれてこない。
時間的にはかなり余裕があるのだが、かなり喉が渇いていた。
前日に培った気合コミュニケーションで、店員さんに状況を訴えた。
どうやら他のお客さんと同様に受け取り口で待たないといけないようだった。
だが、いつまで経っても自分のビッグマックセットが呼ばれない。
明らかに自分より後に来たお客さんたちが次々と呼び出される。
近くにいた黒人女性のお客さんが「どうしたの?」と心配してくれた。
気合コミュニケーションで「ずっと待ってるんだけど呼ばれなくて…」と返した。
同情するような表情を浮かべてくれた。
気合コミュニケーションも案外伝わるようだ。
喉の渇きが限界を迎える頃合いだった。
ずっと居座るアジア人を奇妙に思ったのか、清掃に回っていた店員さんが声を掛けてくれた。
気合コミュニケーションで「ビッグマックセットをずっと待ってます」と返したら、その店員さんが急遽オーダーを通して自分の元に持ってきてくれた。
またしても心からの”Thank you so much”を伝えた。
ビッグマックをオーダーしたのは、前日のシャーロット空港でのバーガーキングXLと同じようにアメリカンサイズを期待してのものだった。
待たされた末に出てきたものでもあるため、その期待は非常に高まっていた。
そして届いたものがコチラ。
期待とは違い、日本で販売されている大きさとほぼ同じものが出てきた。
(ドリンクカップは比較にならないほど大きかったが…)
味も、日本のものよりチーズの乳成分が強そうという程度で、あまり大差がなかった。
少しがっかりである。
ここで少し話が脱線するが、「ビッグマック指数」というものをご存じだろうか。
自分はこの存在を帰国後に知ったのだが、世界各国の経済状況を示す指標の一つである。
どうやらビッグマックは全世界共通の材料やレシピで作られており、提供される品質が全世界で限りなく均一な食品らしいのだ。
つまり、ビッグマックは全世界で同じ価値の食品と見なすことができる。
この前提に従うと、「高いお金を出してビッグマックを食べる国 = 国民が沢山のお金を持っている国 = 経済レベルが高い国」といえる…といった理屈だ。
この「ビッグマックにがっかりした」という経験があったからこそ、自分もビッグマック指数についての知識が深く植え付けられたのだと思う。
こうして、フローレンスでのマック昼食は、「経験と知識は深く関係する」と改めて気づかされた出来事にもなった。
興味を持った方は、コチラの動画を見てみてほしい。
フローレンス市街地へ
マックから1 kmほど歩いたあたりから、歩道が出現した。
そして、歩行者向けの信号機も出現した。
やっと堂々と道を歩ける…
この心境を日本で感じることはほぼないだろう。
そして、ライブ会場のFrancis Marion University (FMU)の道路案内も出現した。
このあたりからAndy Timmonsに会える実感が湧き、”希望”が”期待”に少しずつ変わり始めた。
歩道の出現からしばらくすると、大型商業施設の街並みが住宅街に変化した。
住宅街の中に、ドデカく顔写真を載せたインプラントの看板を見つけた。
インプラントの看板がドデカく顔写真を載せがちなのは、何も日本だけではないのかもしれない。(富川は街中で「きぬた歯科」のドデカ顔看板を普段よく目にしている)
目的地のFMUが近づくにつれて教会を目にするようになった。
主にヨーロッパでは教会を中心に街が形成されていることから、自分が市街地にたどり着いたことを強く実感した。
(アメリカで同じことが言えるかは微妙だが…)
そして、FMUと思われる場所にたどり着いた。
ここまで来て「場所を間違えた」という顛末だけは避けたいと思い、勇気を振り絞って建物の中に入った。
建物に入ると、さっそく白人で中高年の女性職員の方と目が合った。
気合コミュニケーションで「今夜ここでAndy Timmonsのライブがあるってことで合ってますか?」と尋ねた。
女性職員の方「合ってるよ!」
それを聞いた瞬間、心の中で盛大にガッツポーズを決めた。
Andy Timmonsに会える!
Andy Timmonsの生演奏が聴ける!
バキバキに心を折られまくったけど、何とかたどり着いた!
身体中のアドレナリンが爆発した。
運命は突然に…
その女性職員さんは、見ず知らずの奇妙なアジア人の存在と発言に、大変驚いた顔をしていた。
アドレナリン大爆発状態の自分は、今がチャンスだと思い畳み掛けた。
「Andy Timmonsのライブがあると知って日本から来たんです!」
「Andy Timmonsと会うためだけにフローレンスに来ました!」
すると、女性職員さんが
「今、ウチの学生向けにAndyがmasterclassやってるから入る?」
耳を疑った。
耳の機能を疑うどころか、自分に耳が付いてるのかすらも疑うレベルだ。
咄嗟に“Really??????”を連発した。
たぶん中には日本語の「え?!」も混ざっていた。
しかし、そんなのは関係ない。
女性職員さんに案内されるまま進む。
部屋のドアが開く。
そこには画面越しに何十回、何百回、何千回と見たギタリストの姿があった—
(続く)